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十一日目

岩、巖、顔、汽、言、己、記、帰

岩

[3]などの書道字典には「岩」の項目がない。[1]や[2]などのペン字便覧や常用漢字の便覧である[9]にはもちろん「岩」がある。康煕字典を見ると、「岩」は「[正字通]俗ノ嵒ノ字。巖俗ニ省キテ岩ヲ作ル」とある。昭和三十一年の国語審議会報告「同音の漢字による書きかえ」にも、巖→岩の例は出てこないから、この時には巖と岩などはすでに別の字種として認識されているのかもしれない。

巖

小学校では習わないが、岩を習ったついでに。「岩」の項参照。

下図は唐の大宗の書いた形より。

下図は隋の智永の書いた形より。

下図は唐の懐素の書いた形より。

顔

下図は、王羲之に基く。

下図は、則天武后。上図と「頁」の部分が違うのは、すぐにわかる。

上図をよく見ると、「彦」の「彡」が二本になっている。下図は漢代の字で、やっぱり「彡」のところが二画しかない。

下図は、唐の楷書で、やはり同じ。

下図は、懐素の字にもとづくもの。「立」に「七」の形が見えるのは「音」参照。

汽

[3]などの書道字典には「汽」の項目がない。[1]や[2]などのペン字便覧や常用漢字の便覧である[9]にはもちろん「汽」がある。漢和辞典を見ると、「汽」は、「（名）(1)水蒸気。ゆげ。「汽笛」「汽船」(2)液体あるいは固体が熱によって気体となったもの。（動）(1)水が干上がる。」（「全訳漢辞海」初版、三省堂）とある。康煕字典を見ると、「汽」は[さんずい＋乞]と同じとある。この[さんずい＋乞]は、漢和辞典にも載っているが、「（動）(1)水が干上がる(2)尽きる。終わる。（副）(1)ほとんど、おそらく」（同前）とあるのみ。干上がるという意味の[さんずい＋乞]という字があり、「汽」は異体字であったのだが、後に水蒸気の意味で使われるようになった、ということだろうか。

言

下図は、東晋の王羲之が書いた字に基く。

上図で問題となるのは、活字との画の対応である。活字にはある画が、草書では省略されているように見える。隷書の「言」は、現在の活字と同じだけの画をもっているので、草書にするときにどれかの画が省略されたわけである。では、どの画が欠けたのか、以下推理してみる。

次の図は、唐の大宗の書いた字にもとづくもの。これは、現在の活字と一対一にパーツが対応している。

王羲之には、はじめに挙げた以外にも以下のような字がある。大宗がこれを見ていたかどうかわからないが、上図と同様、現在の活字のパーツと比べて過不足がない。

そして、王羲之にはまた、下図のような形がある。上図と、下図を比べると、下図でパーツが一つたりないことに気づく。

そして、上図と下図と比べてみると、欠いているパーツが、活字で一番長い横画であると想像できる。

そうであれば、下図のような王羲之の形においても、やはり同じパーツが省略されていると考えるのが自然であろう。

上図は、容易にこの項の最初に挙げた形になる。

次図も王羲之にもとづくが、このような形でも一画目と二画目がけっしてつながらないのは、その間に省略された横画が意識されているからかもしれない。

なお、これらの形は「言」が単独で用いられた場合の話であり、「ごんべん」として用いられた場合は、また別の話である。

己

上図は王羲之に基くもの。「引」や「弓」と比べてみると面白い。

記

王羲之の書いたものであるが、「言」が「ごんべん」として使われるときは単独で使われれうときと違って、パーツの欠損が起こらない。また、「己」参照。

帰

帰は歸。下図は、漢代以来用いられた形による。

上図で、最終画あたりの「×」部分は、「／→＼」つまり、縦横の順で書かれている。ただし、これを続けて一筆で書くときには、横縦の順も行われている。

下図は、唐の時代の楷書による。唐の時代の「歸」の字体は何種類かあるが、康煕字典の「歸」の形はない。どれも、一画目の「ノ」はなく、「ヨ」の真ん中の棒は突き出ていない。（参考：[5]p.397）

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