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草書の骨格

草書は点画をつなげて書くので、一見テキトーに書かれたもののように見える。しかし、よく観察してみると、そんなことはない。やはり、骨になる部分がある。この骨にあたるものは、「楷書を崩すと行書になるけれども、何を崩すと草書になるの？」という質問の答えになりそうだ。

もくじ

• 私の目的
• 草書の骨格
• 観察の例
• 教育漢字の草書体
  • 小学校 1 年生の漢字
  • 小学校 2 年生の漢字
  • 小学校 3 年生の漢字
• 仮名、変体仮名の理解のために参考になる字
• 参考書

私の目的

草書は字であるから、書いて読んでもらえること、書かれたものを読めるようになることが基本であるに違いない。現代生活の中で、草書を実用に使える機会はほとんどないが、そうであってもこの基本に変更はあり得ないと思う。楷書は読んで書けないと生活に支障が出るから、字がどんなに下手であろうと読み書きをする。草書も同じである。

この面から草書学習上の問題点を考えると、どうやったら読めるようになるのか、どう書いたら読んでもらえるのか、の二点に尽きる。「草書を覚える」とは、この二点をクリアすることであろう。

そしてそのためには、草書の欠くべからざる部分、つまり骨格にあたるものを把握することが、まず必要であると思う。

草書の骨格

むかしの人は、骨の形（字体）と肉のつけ方（間架結構・用筆運筆）について現代人ほど厳密に区別したいという欲求を持っていなかったように思える。また、現代においても、草書がもっぱら芸術表現のためのものになってしまったために、字体と間架結構・用筆運筆の区別をとやかく言い立てないような印象がある。

しかしながら、骨の形（字体）を覚えて、これと区別して肉のつけ方（間架結構・用筆運筆）を学ぶという学び方は現代人の得意とするところであり、この点においては楷書も草書も大差はないだろう。

ただ、草書はその発生のときから、いきなり点画をつなげた形で表現されたために、楷書のように骨の部分が自明というわけではないし、もちろん当用漢字字体表の字のような形で骨に当たるものを端的に表現した字は存在しない（註）。草書の骨は、草書を書く人の心の中にしか存在せず、それを人に示すための手段も用意されていないということになる。

そこで、草書の骨格（字体）を学ぶために、現在われわれが見慣れた活字のそれぞれの点画が、草書ではどの部分に相当するのかを示してみようと考えた。間接的ではあるが、これによって草書の骨格（字体）を示唆することができるのではないかと思ったのである。

（註）この問題が難しいことを示したのが、当用漢字表にかんする国語審議会の答申である。これは、標準的な字体を示すために、奇妙なデザインの字を用いているのである（当用漢字字体表）。これについて、「現代字体辞典改訂新版」（講談社）は、「かつての当用漢字字体表では、芸術性・装飾性のない、なるべく客観的な見本として、線の太さに変化をつけない記号的な字形を示した」としている。つまり、標準的な「ひな型」を示した、ということであろう。国語審議会は、これがひな形として適切であるとは思えなかったらしく、常用漢字表を作成したときは、明朝体活字を使っている。とまれ、当用漢字の字体表は、ひな型そのものを表現することがいかに難しいかということを教えてくれる。

観察の例

次は「集」という字で、東晋の王羲之の字を私が鉛筆で真似たものである。

これを絵として見る限り、一度や二度書いてみても覚えられるものではないし、すぐに忘れてしまうのではなかろうか。少なくとも、私はそうだ。

そこで、この字の骨格（字体）を調べてみることにする。まず、現代の活字と漢の時代の字を比べてみる。

まず、漢の字のほうでは、頭のところがクの字になっていることがわかる。これは頭に入れておく。

次に、横画の数を数えてみると、漢の字も現代の活字もその数が同じであることがわかる（漢の字のほうに、小さな茶色い文字で上から番号をふっておいた）。

次に、王羲之が書いた別の字を見てみる。やはり、私が鉛筆によって真似たものを示す。

赤い矢印ではじまった画が、何を意味しているか一目瞭然である。楷書で二画にするところが、ひとつにつながっている。もちろん、筆順はまったく異なる。

そして、横画の数をチェックしてみる。上図右の形は、左の活字と比べて横画が一画少ないことに気づく。私は、2番目の横画が省略されたのだと思うが、これは勘である。

また、別の王羲之の字を見てみる。

赤い矢印からスタートする画が短かくなってきていることがわかる。横画の数は、一つ前の王羲之の字と同じである。

また別の王羲之の字を見る。

赤い矢印からスタートする画は、すっかり縮んでしまって、もとの名残りがない。そして、横画はまた一本減っている。2本目と3本目がなくなったのだろうというのは、私の勘。

これらの観察結果にもとづき、現代の活字の点画を、草書の各部分と対応させてみると、次のようになる。

邪道極まりないに違いないが、上の図で示された草書の骨格を楷書風に翻訳すると、次のようになる。

これだけ知っていると、癖なり装飾的要素なりを加えたさまざまな書きぶりを解読できるようになるし、自分がどう書いたら人に読んでもらえるかがわかろうというものだ。

教育漢字の草書体

活字は楷書の子どもで、楷書は草書の兄弟（親ではない）だから、現在の活字の形を、その伯父さんである草書の形を比較するのは面白いことだと思う。活字のどの画が草書のどの部分に当たるのか、その対応関係を図にして、草書の記憶に役立てようと考えた。

草書の字体は一通りではないので、個人的な趣味によって選択した（和様ものはとらず、がいして晋唐の字が多い）。参考になりそうなものなら、行書であろうと章草であろうと構わずメモした。画の対応関係などについての誤りは、メモということで許してほしい。だれかちゃんとした解説を出してくれるのを望むばかりである。

なお、学習の都合上、学年配当が前後したり、教育漢字以外の文字が入ったりしている。

（以下、順次書き足している最中なり）

小学校一年生

一日目（雨、口、右、石、見、貝、円、立、日、音、王、五、左、六）

二日目（下、山、止、正、大、犬、九、丸、火、月、青、肌、学、水、永）

三日目（木、米、気、金、花、糸、空）

四日目（交、校、耳、取、東、車、女、小）

五日目（生、赤、千、早、草、川、先、足、村、男、竹）

六日目（中、虫、田、土、入、白、年、白、百、文、本）

七日目（町、天、名、目、力、林）

小学校二年生

八日目（引、羽、雲、園、遠、走、可、何）

九日目（科、夏、家、谷、欲、歌、画、回、会、絵）

十日目（母、毎、海、外、角、楽、活、間）

十一日目（岩、巖、顔、汽、言、己、記、帰）

十二日目（弓、牛、魚、京、強、者、教、近、兄）

十三日目（形、計、元、原、戸、古、午、後）

十四日目（語、工、公、黄、広、合、谷、国）

十五日目（骨、曲、豆、体、里、黒、今、才）

十六日目（細、作、算、市、姉、矢、紙、恃、寺）

十七日目（自、時、室、弱、首、頸、秋、吉、周、週）

十八日目（春、書、少、場、色、良、食、心、新）

十九日目（親、図、数、西、声、星、晴、切）

二十日目（雪、舟、船、泉、線、前、組、多）

二十一日目（太、至、台、地、池、知、茶、昼）

二十二日目（長、鳥、朝、直、通、弟、店、点）

二十三日目（電、刀、冬、当、答、頭、同）

二十四日目（内、肉、南、馬、売、読、買、麦）

二十五日目（半、番、父、風、分、門、聞、歩、方）

二十六日目（北、妹、万、明、鳴、毛、夜）

二十七日目（野、友、用、集、進、曜、来、里、理、話）

小学校三年生

二十八日目（悪、安、暗、医、委、意、育、員）

二十九日目（院、飲、運、泳、游、幸、沢、駅、央）

三十日目（横、屋、温、化、荷、界、開、階）

三十一日目（寒、感、漢、官、館、岸、起、其、基、期、客）

三十二日目（究、急、級、宮、求、球、去、橋、並、業）

三十三日目（曲、局、銀、区、苦、具、君、係）

三十四日目（軽、血、決、研、県、庫、湖、向）

三十五日目（港、号、根、祭、皿、仕、死、使）

三十六日目（始、指、歯、詩、次、事、持、式）

三十七日目（実、写、者、主、守、酒、受、州）

三十八日目（拾、終、習、住、重、宿、所、暑）

三十九日目（助、昭、消、商、章、勝、乗、植）

四十日目（申、身、神、真、深、世、整、昔）

四十一日目（全、相、送、想、息、速、族、他）

四十二日目（打、対、待、代、第、題、炭、短）

四十三日目（談、着、注、柱、丁、帳、調、追）

四十四日目（定、庭、笛、鉄、転、都、度、投）

仮名、変体仮名の理解のために参考になる字

仮名は漢字ではない。だから、草書にきわめて近い仮名も書かれてきた一方、草書に対して漢字としてはあり得ないような種類の変形を加えて書かれた仮名もある。そうはいうものの、草書を知っていると仮名が覚えやすいことは間違いない。

以下、前節の各字へのリンク。

あ　安 悪 い 意 う　雲

か 可 家 荷 き 木 起 く 九 け 計 気 こ　己 古

さ 左 作 し 新 す 春 数 せ 聲

た　太 多 ち　知 地 千 て 天 と 止 當 東 な 名 に 耳 ね 年 の 野

は 者 ひ 日 火 ほ 本

ま 萬 馬（「め」にも使う） み 見 め 女 馬（「ま」にも使う） 目 も 母

参考書

[1]「ペン字常用漢字の楷行草」（江守賢治、日本習字普及協会）
著者の信念により、古典作品が積極的に再解釈されていて力強い。部品の独立性をよく保つような字を示しているものが多い。

[2]「常用漢字の六体」（狩田巻山、日本習字普及協会）
これもペン字用の本。[1] より癖が少なく穏かだが、字体の選択は似ている。

[3]「中国書道大字典携帯日本版」（ＮＨＫ出版）
中国の字が多く載っていて、見ていて楽しい。

[4]「楷行草筆順・字体字典」（江守賢治、三省堂）
楷書のみならず、草書の筆順も詳しく表示。ペンと毛筆の字が載っている。

[5]「解説字体字典」（江守賢治、三省堂）
字体の歴史について蒙を啓かれる。

[6]「現代字体字典改訂新版」（講談社）
書写指導者向けの資料という印象。収録字種4000字。

[7]「楷行草書体字典」（日本習字普及協会）
古典作品から初心者向きの字だけ選んで掲載したユニークな便覧

[8]「ペン字精習〈下〉」（狩田巻山、日本習字普及協会）
ペン字の教科書。よく使う字の一覧もあり、同著者の[2]より線質が力強い。

[9]「常用漢字など二千五百字 楷行草総覧」（江守賢治、日本放送出版協会）
[1]と同著者によるＡ４版の本で、毛筆による楷行草便覧

[10]「携帯かな字典」（筒井茂徳編、角川書店）

[11]「漢字小百科辞典」（原田種成著、三省堂、1989）

以上、たまたま我が家にあったので参考にたまで。

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