カビパン男と私

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結局ヘッドホンのノイズ・キャンセリングて効くの?

Amazon なんかに出品されているノイズ・キャンセリング・ヘッドホンのユーザー・レビューを読むと、どの製品についてもけっこう評価が分かれていている。☆の数がバラついているという意味ではない。ノイズ・キャンセリングが利く利かないの評価が大きく分かれているということだ。同じ製品について評価が分かれる理由を自分なりにではあるが、考えてみたい。

都会に住む人はだれでも感じていることと思うが、われわれは騒音に囲まれて暮らしている。私の住まいについていえば、百メートルほど離れたところにある大通りを引っ切り無しに車が走っている。目の前の道路に雨水を流す管が埋まっていていつも水が流れている。冷房機や、換気扇がついていることも多い。冷蔵庫もしばしば唸っている。飛行機もしばしば飛んでいる。そしてたいていどこかから工事の音が聞こえている。

こうした騒音には低い音もあれば、高い音もある。連続的な音もあれば、断続的な音もある。まず第一に注目すべきことは、ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンは連続的な低い音をカットするのが得意だということである。簡単にいうと、ゴーッという音を軽減することができる。たとえば扇風機の音が「ブーン」という低い音と「シャーッ」という高い音が混ざっている場合は、「ブーン」がカットされて「シャーッ」だけが聞こえる。工事現場から聞こえる音でも「ガーッ」という連続的音は消えるが「ダッダッダッダッ」という断続的な音は消えなかったりする。

ここですでに人によってノイズ・キャンセリングに対する評価が分かれてくる。われわれは、ゴーッという連続音には比較的慣れやすいものだ。もし耳から聞こえていても、脳のほうで意識しないのである。したがって、ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンが一生懸命ゴーッという音をカットしていても、はじめから意識していない音が軽減されただけである以上、「ノイズ・キャンセリングなんて全然効かない」と言う人が出てくる。「効かない」という人に「ほら、冷房機の音が消えているでしょう?」などと指摘すると「ああ、気づかなかったけど、そういえばそうだね」ということになる。

一方、低くて連続したゴーッという音に敏感で、ふだんこれをうるさいと思っている人の場合には、ノイズ・キャンセリングはかなり「効き目がある」という印象を与える。

ただ、これが飛行機や列車の中だと話が違ってくる。ゴーッという連続的な低音がはなはだ大きいので、多くの人はそれに慣れることができないのだ。したがって、そういう場所ではノイズ・キャンセリング・ヘッドホンの威力がわかりやすい。実際、製品のユーザー・レビューを読んでみても、乗物に乗るときに使っているという人については「ぜんぜん利かない」ということを言っている人は少ないように思える。飛行機の値段が高い座席にノイズ・キャンセリング・ヘッドホンが備えられているのも、それが「効く」人が多いということの傍証となるかもしれない。

さて、多くの人はノイズ・キャンセリング・ヘッドホンを音楽鑑賞に使っている。そしてこの場合、周囲のゴーッという騒音が低減するノイズ・キャンセリングはどういう効果を持つだろうか。じつはこれがなかなか評価しにくい面を持っている。

静かな音楽を聴くような場合、それまで周囲の騒音にかき消されていたコントラバスの音が耳に届くようになる。また、ピアノのような複雑な音を出す楽器の場合、中音域の音を出していても同時に低い音が出ているものである。こうしたものは、周囲の低い騒音がなくなると、リアルでのびやかな音に聞こえる。ただし、低くて連続的な騒音の中で楽器の出す低い音を聴きとることに慣れている人は、ノイズ・キャンセリング・ヘッドホンは低音を強調しすぎると感じるかもしれない。

一方、大音量で音楽を聴く習慣がある場合、もとから周囲の騒音に負けないくらいに音量を上げているだろうから、ノイズ・キャンセリングの効果はあまり感じられないだろう。

ざっとこのような点をふまえれば、製品レビューを読むときに「このレビュアーは何を期待しているのか」「どういうような音楽を聴く習慣があるのか」を推測でき、いくらか製品選びの参考になるのではないかと思うのである。

@kabipanotoko